東京地方裁判所 昭和48年(行ウ)120号 判決 1977年5月26日
長野県長野市三輪九丁目四九番二七号
原告
昭和開発有限会社
右代表者清算人
田中一高
右訴訟代理人弁理士
雪入益見
同
大森典子
同
江森民夫
右訴訟復代理人弁理士
金井清吉
長野県長野市西後町六〇八番地の二
被告
長野税務署長
右指定代理人
川一郎
同
丸山豊一
同
平林
東京都千代田区霞が関三丁目一番一号
被告
国税不服審判所長
右指定代理人
立石忠勝
右被告両名指定代理人
渡辺等
同
真庭博
主文
1 原告の被告長野税務署長に対する本位的請求に係る訴えをいずれも却下する。
2 原告の被告長野税務署長に対する予備的請求をいずれも棄却する。
3 原告の被告国税不服審判所長に対する請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告
1 (本位的請求)
被告長野税務署長が昭和四七年三月二八日付で原告に対してした昭和四四年七月一日から同四五年六月三〇日までの事業年度以降の青色申告の承認の取消処分を取り消す。
(予備的請求)
右本位的請求に係る青色申告の承認の取消処分は無効であることを確認する。
2 (本位的請求)
被告長野税務署長が昭和四七年三月三一日付で原告に対してした昭和四三年七月三一日から同四四年六月三〇日までの事業年度、同四四年七月一日から同四五年六月三〇日までの事業年度及び同四五年七月一日から同四六年六月三〇日までの事業年度の法人税の各更正及び各重加算税賦課決定をいずれも取り消す。
(予備的請求)
右本位的請求に係る各更正及び各重加算税賦課決定はいずれも無効であることを確認する。
3 被告国税不服審判所長が昭和四八年六月四日付で原告に対してした昭和四四年七月一日から同四五年六月三〇日までの事業年度以降の青色申告の承認の取消処分並びに昭和四三年七月三一日から同四四年六月三〇日までの事業年度、同四四年七月一日から同四五年六月三〇日までの事業年度及び同四五年七月一日から同四六年六月三〇日までの事業年度の法人税の各更正及び各重加算税賦課決定についての審査請求を却下する旨の各裁決をいずれも取り消す。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決
二、被告長野税務署長
1 本案前の申立て
主文第一項同旨及び訴訟費用は原告の負担とするとの判決
2 本案の申立て
(一) 原告の被告長野税務署長に対する請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決
三、被告国税不服審判所長
主文第三項同旨及び訴訟費用は原告の負担とするとの判決
第二、原告の請求原因
一1 原告は、不動産売買、仲介等を業とする有限会社で、昭和四三年七月三一日設立(当初の商号は有限会社昭和土地建物)し、同四七年二月一六日清算を開始している。
2 原告は、昭和四三年七月三一日から同四四年六月三〇日までの事業年度(以下「第一事業年度」という。)の法人税についていわゆる白色申告書により、同四四年七月一日から同四五年六月三〇日までの事業年度(以下「第二事業年度」という。)及び同四五年七月一日から同四六年六月三〇日までの事業年度(以下「第三事業年度」という。)の法人税について青色申告書によりそれぞれ確定申告したところ、被告長野税務署長(以下「被告税務署長」という。)は原告に対し、昭和四七年三月二八日付で法人税法第一二七条第一項第三号に該当するとして第二事業年度以降の青色申告の承認の取消処分(以下「本件取消処分」という。)をし、同月三一日付で第一事業年度の法人税を二、一四二、〇〇〇円とする更正及び重加算税六四二、六〇〇円の賦課決定、第二事業年度の法人税を二、九一七、四〇〇円とする更正及び重加算税八五八、〇〇〇円の賦課決定並びに第三事業年度の法人税を二一一、六〇〇円とする更正及び重加算税六四、二〇〇円の賦課決定(以下右三事業年度の各更正及び各重加算税賦課決定をあわせて「本件各更正等処分」という。)をした。
3 原告は、昭和四七年五月二七日付で被告税務署長に対し本件取消処分及び本件各更正等処分(以下あわせて「本件各処分」という。)について異議申立てをしたところ、同被告は、同年八月二五日付で右異議申立てを棄却する旨の各決定をし、右各決定書謄本(以下「本件各決定書謄本」という。)は、原告に対し昭和四八年三月七日送達された。
4 原告は、昭和四八年四月五日被告国税不服審判所長(以下「被告審判所長」という。)に対し本件各処分について審査請求をしたところ、同被告は、同年六月四日付で右審査請求を却下する旨の各裁決(以下「本件各裁決」という。)をした。
二1 本件取消処分の取消事由
(一) 法人税法第一二七条第二項により附記すべき理由は、何故取り消されたのか被処分者にわかる程度の具体的な理由であることを要するところ、本件取消処分通知書には「簿外取引が認められ、また仮名と認められる預金の設定があり同取引内容からみて記載事項の全体について真実性が認められないこと。」との理由附記があるのみで、何ら具体的事実を示していないので、本件取消処分は法人税法第一二七条第二項に違反する。
(二) 原告には法人税法第一二七条第一項第三号に該当する事実はない。
2 本件各更生等処分の取消事由
(一) 原告には本件係争各事業年度について簿外取引、仮名預金は存在しない。
(二) 本件取消処分は1記載のとおり違法で取り消されるべきであるから、帳簿書類の調査なしでされ、かつその通知書に理由の附記がない第二事業年度及び第三事業年度の各更生は、法人税法第一三〇条に違反する。
三1 本件取消処分の無効事由
本件取消処分は、行政庁がその職務の誠実な遂行として当然に要求される程度の調査によつて判明すべき事実関係に照らして明らかな誤認を含んでいるから、無効である。
すなわち、原告は、帳簿書類及びこれに添う契約書類等を整えていたし、簿外取引、仮名預金は全く存在しなかつたのであるから、本件取消処分は重大な誤認を含んでいる。そして、被告税務署長は、原告にいかなる簿外取引があつたか、あるいは帳簿の記帳と実際の取引の間にいかなる食違いがあるかにつき一切誠実な調査をしていないし、同被告においてその職務を誠実に履行し充分な調査を遂げたならば、右のような誤認をすることはなかつたことは明らかである。
よつて、本件取消処分は、重大かつ明白な瑕疵を含む無効な処分である。
2 本件各更正等処分の無効事由
(一) 本件各更正等処分は、被告税務署長所部職員青木繁之らが銀行調査のみにより充分な追加調査もせず仮名預金を認定し、さらにその預金中から任意に金銭の出入りを抽出し記載漏れないし簿外取引と認定していたもので、右青木らの恣意的な調査に基づくもので、実質的な調査はないに等しく、処分の前提たる調査の態様を備えておらず、処分に必要な根本要件を欠くものであるから当然に無効である。
(二) 本件取消処分は1記載のとおり無効であるから、第二事業年度及び第三事業年度の各更正は、法人税法第一三〇条第一項に基づいてされなければならないところ、被告税務署長は右各更正をするにつき原告の帳簿書類に基づいて課税標準又は欠損金額の計算に誤りがあることを認定していない。このように法人税法第一三〇条第一項に基づかないで更正した瑕疵は、重大でかつ一見して明らかであるから、右各事業年度の各更正及び各重加算税賦課決定は無効である。
四 本件各裁決の取消事由
本件各裁決は、一の3記載のとおり本件各決定書謄本が原告に対し適法に送達されたのは昭和四八年三月七日であるのに、その送達は昭和四七年八月二六日であるとして、原告の適法な審査請求を却下したもので、違法である。
五 よつて、原告は、被告税務署長に対し本位的に本件各処分の取消しを、予備的に本件各処分の無効確認を、被告審判所長に対し本件各裁決の取消しをそれぞれ求める。
第三被告税務署長の答弁
一 本案前の申立ての理由
1 国税に関する法律に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、異議申立てをすることができる処分にあつては異議申立てについての決定を、審査請求をすることができる処分にあつては審査請求についての裁決をそれぞれ経た後でなければ提記することができないものとされている(国税通則法第一一五条)。
ところで、本件各処分についての原告の異議申立てに対する本件各決定書謄本は昭和四七年八月二六日原告に送達された。右各決定に対し原告は、一か月の審査請求期間(国税通則法第七七条第二項)を徒過した昭和四八年四月五日に至り被告審判所長に対し審査請求をしたので、同被告は期限徒過による不適法な請求として同年六月四日付で本件各裁決をした。
したがつて、本件各処分の取消しを求める訴えは、適法な審査請求を経ていないものであるから不適法な訴えであり、却下されるべきである。
2 本件各決定書謄本送達に関する事実関係は、次のとおりである。
昭和四七年八月二六日被告税務署長所部職員松本清が本件各決定書謄本の送達のため原告の事務所に出向いたところ、応対に出た者は、原告は既に清算を結了し存在しないとしてその受領を拒否した。そこで同所部職員桑野五郎は、原告の異議申立代理人たる税理士水沢茂夫に電話連絡したところ、同税理士から「私が受領し原告代表者に送付するから、私の事務所に届けていただきたい。なお本日は帰れないが事務員に渡しておいてほしい。」旨の返答を得たので、同日同税理士の事務所に行き、それぞれ本件各決定書謄本を入れた四通の封筒を同事務所職員武井康祐に手交し、文書送達簿にその受領を証する押印を得て送達を了したものである。
そして本件各決定書謄本は同税理士から昭和四七年九月ころ原告代表者に送付されたが、原告代表者は同月三〇日一旦受領した本件各決定書謄本を書留郵便にて被告税務署長に返送し、その後昭和四八年三月七日原告代表者が同被告に対して本件各決定書謄本の交付方を申し出たので、係官がこれを返却したものである。
二 請求原因に対する認否
請求原因一の1、2及び4の事実は認める。同一の3のうち、本件各決定書謄本が原告に対し昭和四八年三月七日送達されたことは否認し、その余の事実は認める。
同二の1の(一)のうち、本件取消処分通知書に原告主張の理由附記があることは認めるが、その余は争う。同二の1の(二)及び2並びに同3は争う。
三 被告税務署長の主張
本件各処分に無効事由が存在する旨の原告の主張は、次に述べるように主張自体理由がない。
1 特定の行政処分について無効の主張が許されるかどうかは、当該行政処分の性質、不服申立制度が処分の違法を是正するうえにおいて果たすべき役割の重要性、当該処分の瑕疵そのものの重大性、明白性等一切の事情を総合勘案して判断すべきである。ことに課税処分は本来大量かつ回帰的にされるものであるうえに、課税要件の充足の有無に関する事実は、課税の原因となるべき事実を直接知り得る立場にある納税義務者の適正な協力なくしては、これを正確に把握することが困難であるから、納税義務者の申し立てる行政上の不服申立手段が処分の違法を是正するうえにおいて果たすべき役割は重視されるべきであつて、みだりに課税処分の無効を理由に出訴できるものではない。
したがつて、この種の処分につき課税要件の不存在を理由にその無効を主張するには、行政上の不服申立手段を尽さないことにより又は出訴期間を徒過したことにより出訴を許さないとすることが納税義務者にとつて著しく酷と認められるような重大な瑕疵の存在することが処分の外形上客観的に明らかであることを具体的事実に基づいて主張することを要するものと解すべきである。
2 しかるに原告は、処分についての重大な瑕疵の存在が処分の外形上客観的に明白であることを具体的事実に基づいて主張していない。
のみならず原告は、本件処分について被告税務署長に異議申立てを行いながら、その審理に何ら協力せず、加えて被告審判所長に対する審査請求を漫然と放置していた。したがつて、本訴において本件各処分の無効を主張することは過重な保護を求めるものであつて失当である。
3 仮に本件各処分において原告の所得金額に誤認があつたとしても、本件各処分の当初から外形上客観的にその誤認が看取し得るものではなく、事実関係を精査して初めて判明する性質のものであつて、いまだ重大かつ明白な瑕疵といえないから、本件各処分を無効ならしめるものではない。
第四被告審判所長の答弁
一 請求原因に対する認否
請求原因一の1及び4の事実は認める。同一の3のうち、本件各決定書謄本が原告に対し昭和四八年三月七日送達されたことは否認し、その余の事実は認める。
同四のうち、本件各裁決が本件各決定書謄本の原告に対する送達を昭和四七年八月二六日であるとしていることは認めるが、その余は争う。
二 被告審判所長の主張
第三の一の2のとおり、原告は昭和四七年八月二六日に本件各決定書謄本の送達を受けているのであるから、昭和四八年四月五日被告審判所長に対してした審査請求は、期限を徒過した不適法なものであり、同被告がこれを却下したことに違法はない。
第五本件各決定書謄本の送達に関する原告の主張
昭和四七年八月二六日被告税務署長所部職員が税理士水沢茂夫の事務所に出向いたが、同税理士は不在であり、同事務所職員の計らいにより同税理士は右所部職員と電話で応対したが、同税理士は本件各決定書謄本の受領権限のないことを告げて、受け取りを拒否し、かつ預ることも断つた。それにもかかわらず、右所部職員は、事務所職員に「預つてくれ。」と申し述べて事務所に本件各決定書謄本を差し置いていつた。
以上のとおり、右所部職員は同税理士が本件各決定書謄本の受領を拒否しているのに事情を知らない事務所職員にこれを預けていつたものであり、仮にそうでないとしても受領権限のない同税理士への送達であるから、原告への送達があつたものとはいえない。
そして、同税理士は、右差置きにつき原告代表者に何ら連絡もせず、同年九月三〇日右差置きに係る封筒の封も切らずに訴外昭和土地建物株式会社事務員丸山孝子をして長野税務署に返送させ、その後昭和四八年三月七日原告代表者が同署に赴き、本件各決定書謄本の送達を受けたものである。
第六証拠関係
一 原告
1 提出した書証
甲第一号証、第二号証の一ないし四、第三号証ないし第一四号証、第一五号証の一ないし四、第一六号証ないし第一九号証、第二〇号証及び第二一号証の各一ないし三、第二二号証の一ないし四、第二三号証及び第二四号証の各一ないし三、第二五証、第二六号証、第二七号証の一、二、第二八号証並びに第二九号証
2 援用した証言等
証人水沢茂夫、同丸山孝子、同田中豊、(第一、二回)及び同青木繁之の各証言並びに原告代表者尋問の結果
3 乙号証の成立の認否
乙第一号証ないし第四号証の各一、二、第八号証の一ないし四の各一、二、第一六号証及び第一九号証の成立は認める。第六号証の一、二及び第七号証の成立は否認する。その余の乙号各証の成立は知らない。
二 被告ら
1 被告らの提出した書証
乙第一号証ないし第六号証の各一、二、第七号証、第八号証の一ないし四の各一、二及び第九号証ないし第一九号証
2 被告税務署長の援用した証言
証人桑野五郎及び同青木繁之の各証言
3 甲号証の成立についての被告らの認否
甲第一号証、第二号証及び第一五号証の各一ないし四、第一六号証ないし第一九号証、第二二号証の一ないし四並びに第二三号証の一ないし三の成立(第一五号証の一ないし四及び第二二号証の三、四については原本の存在及び成立)は認める。その余の甲号各証の成立(第二一号証の一、二、第二六号証及び第二七号証の一、二については原本の存在及び成立)は知らない。
理由
一、本件各処分の取消しの訴え(本位的請求)について
被告税務署長は、本件各処分の取消しを求める訴えは適法な審査請求を経ていないものであるから不適法であると主張するのでこの点について判断する。
成立に争いのない乙第一号証ないし第四号証の各一、二及び第八号証の一ないし四の各一、二、証人桑野五郎の証言により真正に成立したと認められる乙第五号証の一、二、証人丸山孝子の証言により真正に成立したと認められる乙第六号証の一、二、同証言及び原告代表者尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第七号証、証人桑野五郎、同水沢茂夫、同丸山孝子及び同田中豊(第一回)の各証言並びに原告代表者尋問の結果をあわせると、次の事実を認めることができる。
異議決定書の謄本は郵便による送達をするのが通常であるが、本件においては異議申立てについての三か月の処理期間の満了すべき時期が切迫していたので、確実に期間内に異議申立人に送達するために交付送達することとなり、昭和四七年八月二六日被告税務署長所部職員松本が本件各決定書謄本を原告に交付送達すべく原告所在地の事務所に赴いたところ、応接に出た女子事務員は、原告は既に解散してしまつているとしてその受領を拒否した。そこで同所部職員桑野五郎は、上司の指示により原告の異議申立代理人である税理士水沢茂夫に送達すべく、出張中の同税理士に対し右受領拒否の状況を電話連絡したところ、同税理士から自分の事務所の事務員に預けておいてくれれば当方で原告に届ける旨の返答を得た。右桑野は、同日同税理士の事務所に赴き、同所事務員の武井に同税理士の右返答の趣旨を告げたところ、武井も同税理士からの連絡によりその趣旨を承知していたので、それぞれ本件各決定書謄本を入れた四通の封筒を武井に交付し、その際長野税務署の文書使送簿に武井の受領印の押捺を得た。原告は、本件各処分に対する異議申立てに関して同税理士に代理権を付与しており、異議申立ても同税理士を代理人と表示してされ、異議申立書に同税理士の代理権を証明する委任状が添付されていたし、同税理士は、終始異議申立ての審理手続において原告の代理人として関与していた。同税理士が代理権限を失つた旨の書面は、被告税務署長に提出されていない。同税理士の事務所においては、同税理士が不在のときは武井が代つて郵便物等を受領するのが通例であつた。同年九月三〇日同税理士は当時訴外昭和土地建物株式会社の事務所となつていた原告事務所に赴き、右訴外会社事務員の丸山孝子に本件各決定書謄本を交付し、同女は、開封しないままの前記四通の封筒及び原告の解散公告を掲載した官報に、原告は解散したので受領できない旨の書面を付して田中一高名義で長野税務署あてに書留郵便で返送した。その後、昭和四八年三月七日原告代表者が原告の元代表取締役田中豊及び小野徳寧とともに長野税務署に赴き、本件各決定書謄本の交付方を申し出たので、桑野は、原告代表者に「お返ししましたが受領しました。」と前記郵送に係る書面の余白に記入せしめた上、本件各決定書謄本を原告代表者に返却した。
以上の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、水沢税理士は本件各処分に対する異議申立てに関して原告から代理権を付与されており(その代理権が異議申立手続前に消滅したことを認めるに足りる証拠はない。)、異議申立てに関する代理人は、各自異議申立人のために当該異議申立てに関する一切の行為をすることができる(国税通則法第一〇七条第二項本文)のであるから、同税理士は、当然本件各決定書謄本を受領する権限を有しており、同税理士に対する送達により原告に対する送達の効力が発生する。そして、国税に関する法律の規定に基づいて税務署長が発する書類の送達は、送達すべき場所において書類の送達を受けるべき者に出会わない場合にはその使用人その他の従業者又は同居の者で書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付することにより行うことができる(同法第一二条第五項第一号)ものであるところ、前記認定の事実によれば、被告税務署長所部職員桑野五郎は昭和四七年八月二六日同税理士が不在であつたため同税理士の事務所において書類の受領について相当のわきまえがあると認められる同所事務員の武井に本件各決定書謄本を交付したのであるから、右交付により同税理士に対する送達が適法にされたものというべきである。そうすると、右交付により当然に原告に対する送達の効力が生じたのであるから、本件各決定書謄本は、昭和四七年八月二六日原告に適法に送達されたものというべきである。
そして、国税不服審判所長に対する審査請求は、異議決定書の謄本の送達があつた日の翌日から起算して一か月以内にしなければならない(国税通則法第七七条第二項)ところ、原告が昭和四八年四月五日に至り被告審判所長に対し本件各処分について審査請求をしたことは当事者間に争いがないから、原告がした右審査請求は、審査請求期間を徒過した不適法なものであり、同被告が同年六月四日付でこれを却下したことも当事者間に争いがない。
したがつて、本件各処分の取消しを求める訴えは、適法な審査請求を経ていないものであり、訴え提起の要件を欠くから不適法である。
二 本件各処分の無効確認の訴え(予備的請求)について
1 請求原因一の1及び2の事実は当事者間に争いがない。
2 本件取消処分の無効確認の訴えについて
原告は、簿外取引、仮名預金は全く存在しなかつたのであり、右事実は被告税務署長が誠実な調査をすれば容易に判明し得たから、本件取消処分は無効であると主張するのでこの点について判断する。
証人青木繁之の証言により真正に成立したと認められる乙第九号証ないし第一五号証、同証言及び証人田中豊の証言(第二回)(後記採用しない部分を除く。)をあわせると次の事実を認めることができる。
昭和四六年四月一二、一三日の両日長野税務署国税調査官青木繁之は、原告の法人税調査のため同土屋とともに原告の事務所に臨場し、原告の総勘定元帳、請求書、領収書、売買契約書、給与関係書類等の帳簿書類を調査した。右調査の結果、原告は役員以下全職員が同族関係者であること、帳簿書類上原告と第三者との取引の多くに原告の役員個人が売買当時者として介在していること、すなわち、原告と役員との間の取引の形態をとつた取引が非常に多いこと、及び役員個人はこれによる利益について申告していないことが判明した。そこで青木調査官は、土屋調査官とともに同月中旬から約一か月間銀行及び銀行以外の取引先について調査をした。そのうち、銀行調査は、八十二銀行長野北支店と長野信用金庫吉田支店とについて預金元帳及び入出金伝票を調査したのであるが、原告及び原告役員名義の預金をもとに調査した結果、入出金伝票の金額の類似、届出印鑑の同一性、類似性、預金名義の類似性、払戻し請求書の手筆の一致等から原告に帰属するものと推認される同族関係者等名義の預金及び仮名預金が多数設定されていることが判明した。一般に、仮名預金は売上除外をし、あるいは架空仕入、架空経費を計上した場合に設定されるものであつて、本件の場合もそのように推認されたため、右調査結果に基づいて当時の原告代表者田中豊の説明を求めようとしたが、五回以上にわたる連絡の都度、不在とか都合が悪いとかで同人の協力が得られなかつたため、それ以上事実関係を確かめるなどの調査は不可能であつた。
以上の事実を認めることができる。証人田中豊の証言(第二回)のうち右認定に反する部分は、前掲証人青木繁之の証言と対比し採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、被告税務署長はその所部職員をして原告の取引銀行等を調査させたところ、原告に帰属すべきものと推認される多数の仮名預金等が発見されたので、更に事実関係を明確ならしめるため、当時の原告代表者の協力を求めたのにかかわらず、その協力が得られなかつたため、右調査結果により簿外取引と仮名預金の存在を推認して本件取消処分をしたものと認められ、右処分に客観的に明白な事実誤認があつたということができないことはもちろん、原告の主張するように、右認定が行政庁の誠実な調査により判明すべき明らかな誤認を含み、簿外取引や仮名預金が存在しないことが容易に判明し得たものとは到底いうことができないことも明らかである。
よつて、原告の主張は理由がない。
3 本件更正等処分の無効確認の訴えについて
(一) 原告は、本件更正等処分は実質的な調査がないに等しく、処分に必要な根本要件を欠くもので無効であると主張する。
しかしながら、被告税務署長はその所部職員をして一応の調査を遂げさせた上、本件更生等処分をしたことは、右2の認定から明らかであり原告の右主張は全く理由がない。
(二) 原告は、第二事業年度及び第三事業年度の各更正及び各重加算税賦課決定は法人税法第一三〇条第一項に基づかないでしたので、無効であると主張する。
しかしながら、本件取消処分は前記2に認定のとおり無効ではなく、右処分により原告の提出した青色申告書は青色申告書以外の申告書とみなされる(同法第一二七条第一項)から、同法第一三〇条第一項の規定の適用のないことは明らかである。よって、原告の右主張も理由がない。
三 本件各裁決の取消しの訴えについて
請求原因の1及び4の事実並びに本件各裁決が本件各決定書謄本が原告に対し送達されたのは昭和四七年八月二六日であるとしていることは、当事者間に争いがない。
原告は、本件各裁決は原告の適法な審査請求を却下したもので違法であると主張するが、本件各決定書謄本が昭和四七年八月二六日原告に適法に送達されたことは、前記一に認定のとおりであるから、右審査請求を審査請求期間を徒過した不適法なものとして却下した本件各裁決に違法はない。
四 結論
よつて、原告の被告税務署長に対する本位的請求に係る訴えはいずれも不適法であるからこれを却下し、原告の同被告に対する予備的請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、原告の被告審判所長に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三好達 裁判官 成瀬正巳 裁判官時岡泰は転補につき署名捺印できない。裁判長裁判官 三好達)